【書評】ケーキの切れない非行少年たち【要約】

カズレーザーさんがバラエティ番組「シューイチ」で紹介したことで大きな話題になりました。
カズレーザーさんは、そこで「激ハマリ」したと語っています。

ぼくも同じく激ハマリしました。読む前と後では社会の見え方が変わります。

ケーキを切れない理由

なぜ非行少年たちがケーキを三等分にできなかったのか?
それは、認知能力の低さです。
認知とは、生活するのに必要となる基礎的な能力です。

この認知に問題が起こるのが認知症です。
認知症になると生活に問題が生じ、暮らしづらくなります。
認知症は、認知能力が低下することで起きますが、非行少年たちは、身についているべき認知能力がそもそも未熟なのです。

認知機能とは、
「ある対象を目・耳・鼻・舌・肌などの感覚器官でとらえ、それが何であるか解釈したり、思考・判断したり、計算や言語化したり、記憶に留めたりする働き」のこと。

『認知症世界の歩き方」より

認知機能はかんたんにいえば、「聞く力」「見る力」「想像する力」。認知機能に問題が起きるとたとえば、

  • カンタンな計算ができない
  • カンタンな図形が写せない
  • 漢字が読めない
  • 短い文章ですら復唱できない
  • 一般常識がない

ある少年は、「日本の総理大臣は?」との質問に「オバマ」と答えたそうです。

反省以前の問題

認知の低さから非行少年たちは、現実をゆがんで見てしまっています。
その状況で、説教や反省させても、正しくそのメッセージを受け取ることができません。また。そもそも、本人たちはわざと問題行動を起こしているわけではない場合が多いのです。

なぜ非行に走るのか?

認知能力の未熟さは本人を追い詰めます。

1日の間中、ずっと理解できない授業を聞かされているとしたら?そして、そのつもりもないのに「怠け者」「劣等者」レッテルを張られるとしたら。本人にとっては、とてもストレスフルではないでしょうか。そのストレスのはけぐちとして、「非行」などの問題行動をおこすのです。

悲しいことに、認知能力に問題がある少年は、いじめの対象になりやすいそうです。いじめを受けたものがさらなる弱者をいじめるのは、よく見られることです。

※もちろん、認知の未熟な少年すべてが非行を働くわけではないことは言うまでもありません。

身体的不器用さ

また非行少年たちの他の特徴として「身体的不器用さ」がみられることがあるそうです。
身体が不器用だとどうなるのか?

  • 接客のアルバイトで料理を出すときに、ドンッと勢いよく置いてしまいトラブルになる
  • 皿洗いの仕事でなんども皿を割ってしまいクビになる
  • サッカーでボールを蹴ろうとしたら、相手の足を蹴ってけがをさせてしまった

認知症でも、自分の「意思」と身体の動きに「ズレ」が起こる場合があります。
その結果、ちから加減が難しくなり

  • ふたが開けられなくなったり
  • 服がうまく着られなくなったり
  • 文字を書くことが難しくなったりします。

よく暴力行為を働いた少年が、「そこまでするつもりはなかった」という趣旨のことを述べることがあります。つい「ウソを言うな」と思ってしまいます。でも、本当にそのつもりはなかったのかもしれません。

見過ごされやすいケーキの切れない非行少年たち

認知能力に問題がある=知的ハンディキャップ です。
日本の心理検査では、知的ハンディキャップがあっても「問題なし」との結果になることが多いそうです。心理検査は「ザル」であると本書では指摘されています。

その結果、本来知的ハンディキャップがある少年に「病名」が付かないのです。
病名が付かないということは、保護の対象にならないということです。
本来は保護される少年たちが、少年院や矯正施設に入っている現状がうかがえます。

ほめる、話を聞くことはNG?

非行少年たちへの支援としてよくあげられるのが

  • 「長所をほめること」
  • 「よく話を聞いてあげること」だそうです。

本書ではその必要性を認めつつも、多くの場合、その場しのぎで、問題の先送りにしかならないと指摘されています。

解決するには?

解決策は、少年たちの未熟な認知能力を上げることです。
本書では「コグトレ」が紹介されています。

コグトレは、認知機能を構成する5つの要素(記憶、言語理解、注意、知覚、推論・判断)に対応する「覚える」「数える」「写す」「見つける」「想像する」の5つのトレーニングからなっています。


学習の土台となる認知機能をトレーニングするのが「コグトレ」です。
本書では、概要にとどまっています。詳細は別の本に譲られています。『コグトレ みる・きく・想像するための認知機能強化トレーニング』など。

さいごに 感想

本書を読む前と後では世界の見え方が変わります。犯罪や非行に関する報道の見え方が一変しました。

よく言われることに、「人の内面は見えないから、目に見える行動で人を判断しよう」みたいなことがあります。これは、一見正しいように思います。でも中には、「目に見える行動だけでもその本人について理解することができない場合がある」ことを学びました。

また、わたしたちの認知はいずれ低下していきます。本書に書かれた「認知」の問題は他人ごとではありません。

参考:『ケーキの切れない非行少年たち(新潮新書)』

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